「塗って作れる」太陽電池でサステナブルな未来を拓く

次世代の太陽電池として今もっとも注目されている「ペロブスカイト太陽電池」。世界中で研究が急速に進んでいるが、トップランナーの一人が京都にいる。京都大学化学研究所教授の若宮淳志さんだ。

「300年後の人類は確実に、化石燃料に頼れない生活を送っているはずです。そのとき、何世代も先の僕の子孫に、『自分の祖先がこの研究をしてくれていて助かった』と振り返ってもらえるような研究をしたい、と思っています」

 持続可能なエネルギー、すなわち再生可能エネルギーの利用を増やすことは人類にとって喫緊の課題。SDGs(Sustainable Development Goals/持続可能な開発目標)の「ゴール7」にも掲げられている。現在、太陽電池でもっとも普及しているのは原料にシリコンを使った太陽電池だ。しかし、シリコン系太陽電池は発電効率が高い半面、製造時のコストやエネルギー消費が大きい。また、パネルが硬く重いために設置場所が制限されるという難点もある。

未利用のエネルギーを活用できる電池 

 一方、ペロブスカイト太陽電池は性能向上の競争が世界中で行われており、効率はシリコン系を猛追している。さらにこの太陽電池はフィルムのように薄く作れ、曲面に貼れるほど柔軟性がある。

「しかも、曇りや室内などの低照度下でも発電できる。すべて、従来の結晶シリコン系太陽電池にはないメリットです」

 世界的に見て日本はさほど日照条件がよくないため、いくらメガソーラーを作っても発電できない日も多いのが現実だ。しかし、ペロブスカイト太陽電池ならさまざまな形で発電することができる。

「たとえば、軽さと薄さを生かしてウエアラブル端末のバッテリーに。電池交換不要のIoT用センサーも作れますね。非常用テントにフィルム状の太陽電池を貼りつけた状態でたたんでおけば、災害時にはテントとして使えるだけでなく、スマートフォンの充電ができます。あるいは、作物が使っていない波長で発電できる太陽電池フィルムをビニールハウスに貼るという形も模索できると思っています」

 直射日光を理想的な状態で受け取らないと発電できない従来の太陽光発電と異なり、身の回りの環境から未利用のエネルギーを積極的に採ってくる「エネルギーハーベスト」を体現できるのがペロブスカイト太陽電池なのだ。

ベンチャー設立で開発と事業化を加速する

 若宮さんは有機化学の研究者としてのバックグラウンドを武器に、これまでもこの太陽電池の高性能化に大きな貢献をしてきたが、目下取り組んでいるのは以下の2つだ。

 ペロブスカイト太陽電池にはもともと、鉛が使われてきた。しかし、若宮さんは生体や自然環境に害を及ぼす鉛を、害の少ない「錫(すず)」に置き換えようとしている。まだ効率は鉛を使ったものには及ばないが、年単位で着々と上がりつつある。

 もうひとつは「ロール・トゥー・ロール」方式を使った製造法の開発。この方法なら、まるで印刷物を「刷る」ように簡単に太陽電池が作れ、シリコン系とは比較にならない低コスト、低エネルギーで製造できる。遠からず、ホームセンターで気軽に若宮式太陽電池が買える日が来るかもしれない。

「ちょっとワクワクするでしょう?」と若宮さんは、大物を狙って船に乗り込む釣り師のような笑顔を見せる。

 もちろん、夢と可能性だけでは実現しない。若宮さんはこの太陽電池を世に出すべく、仲間とともにベンチャー企業「エネコートテクノロジーズ」を立ち上げた。同社は京都大学のベンチャーキャピタル「京都大学イノベーションキャピタル」から出資を受け、研究開発と事業化を加速させている。

「2025年の大阪・関西万博で、僕たちが作るペロブスカイト太陽電池の可能性の大きさを世界に見せられたらいいなと思っています。そういう場から、新たな用途や研究開発の方向性も見えてくるはずですから」

 新たな太陽電池は人類の未来を変える。若宮さんは万博、そしてSDGsという飛び石に足をかけ、より遠くの未来へ釣り竿を大きくしならせる。